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天風と田中義一首相


天風と田中義一首相のこと 2017.12.31

むかし、ある先輩から、天風が田中義一と会った時の話をきいたことがあります。
田中義一といえば、軍人として日清日露の両戦役で活躍し、陸軍大臣のほか、いくつか大臣の要職を歴任し、
昭和2年の金融恐慌の時に、総理大臣になった人です。

田中義一と天風を紹介する人がありました。
天風は田中義一の人間としての高い評判を聞いていたので、会うことに同意したようです。
田中義一の方は、天風が当時すでに自分が主宰する会をもち、
会員の中に、東郷平八郎、後藤新平、尾崎行雄、松浦重剛といった著名な人々のいることを知っていて、
その影響力をつかって、自分が賛助している<日蓮の銅像建立の計画>に協力してほしいと考えたようです。

ところが、田中義一は天風に会ったとき、日蓮像建立の計画を話して、こういったそうです。
「ぜひとも天風先生のご協力をえたい。この計画がうまくいけば、存分の謝礼をいたしますから」
それを聞いて天風はこう答えました。
「お断ります。日蓮は正義の人です。ならば、その銅像を立てるというのは義挙であるべきです。
ところが、最初から謝礼の話をされる。そんなことでは立派な銅像は立たないでしょう」
その場にいた人々は、当時陸軍大臣の顕職にあり大物と目されていた田中義一に対して、
天風が一言のもとに協力を峻拒したことにびっくりしたそうです。
もちろん田中義一も、自分に対する批判を含んだそのような拒絶は想定外であったので、
天風の人間的迫力に圧倒されたそうです。
しかし、両人の間をとりもつ人があり、田中義一も自分の非を認めて天風に謝りました。
それで天風は折れて、協力に同意したという話です。

みなさんは、この話をどう思われますか?

私はまず天風という人は、ほんとうに謝礼など嫌いな人人だったなあ、と納得できます。
天風は、自分の利益を少しも考えないで、人々の幸福を念願して、あらゆる行動をする人でした。
これは信じられないことかもしれません。
そのような人はこの世にきわめて稀だからです。
しかし、天風はきわめて自然にそのような心をもったひとでした。

実際、私の経験から申しますと、私は天風の講演会や<夏の修練会>になんども参加していますが、
参加費をいくら払ったのか覚えていないほど、その金額は僅少でした。

天風はよく私たちにこう諭しました。
「報酬を考えて行動するな」
私たち若者は不遜にも、それを聞くたびに、それは高い理想ではあるけれども、
現実は・・・と思ったものです。

もうひとつ、天風が、日蓮とは思想はかならずしも一致しないけれども、
銅像の建立には協力したという事実です。
天風は日蓮にある種の尊敬の念をもっていたのでしょう。
そういえば、天風は親鸞も尊敬していました。
禅宗の道元はもちろんです。

天風は、そのように自分と宗旨の一致しない人でも、
すぐれた仕事を成し遂げた指導者は、すべて尊敬していました。
キリスト、孔子、モハマッドなどをはじめとして・・・
それが天風の魅力なんです。




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