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天風の大往生

  
中村天風の大往生

 中村天風は大往生を遂げました。その死は、安らかなものだった、と最期を看取られた、秘書の野崎郁子さんから、私は聞きました。最後まではっきりとした意識があり、最期のことばは
「それじゃ、先に旅に出るからね」
という、気軽な一言だったそうです。
 享年92歳。1968年の12月1日でした。
 死の前わずか2,3カ月の間、自宅で静養されておられただけでしたから、私たちには、「先生はポックリ逝かれた」という印象がありました。

 天風が帰霊(他界することを天風は帰霊と表現することを好んだ)された2週間まえに、天風をその病床に訪れた方の話を、聞いたことがあります。その話をここに書きます。

 その方は加藤玉井さんといます。彼女は、京都の服飾デザイナーで、東京の編物学院でも教えおられました。天風先生を若いころから知っていた、珍しい方でした。

 玉井さんがお見舞いされた日、天風先生は、自宅の広い和室に、派手なパジャマを着て、ベッドのうえに背もたれをして、楽々と坐っておられたそうです。
 そして、玉井さんは、枕元にあった、ドイツ語の分厚い本に気がつかれました。
「そんなドイツ語の、こまかい文字をご覧になって、だいじょうぶですか」
と、玉井さんはたずねました。すると、先生は、
「死のまぎわまで、学び続けた人の魂は、天才となって、ふたたびこの世にもどってくるのだよ」
と、お答えになったそうです。

 先生がどれほど本気で、それをおっしゃったかは、私には疑問です。なかば冗談のように、軽く言われたのでしょう。

 その日、先生は元気に、ニコニコと、休むことなく話をされたそうです。先生は、いつもと変わらぬ、力強い声で、
「あなたも命の尽きるまで、服飾の仕事をつづけなさいよ」
と、励まされたとか。

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